腰部脊柱管狭窄症

a.病態と神経ブロックの適応

骨性,椎間板性および靭帯性の要因により腰椎部の脊柱管,神経根管,椎間孔に狭窄が生じた結果,その内容物である馬尾,神経根が障害されて腰痛,下肢痛,下肢のしびれ・異常感覚,神経性間欠跛行,脱力,下垂足,膀胱・直腸障害,持続性勃起などの症状を呈する症候群である.なかでも神経性間欠跛行は特徴的な症状で立位,後屈,歩行の負荷により下肢痛,しびれ,異常感覚が発生あるいは増悪し,足が前に出なくなるが,前屈位の休息で症状は改善し,再び歩行が可能となる1-6).その神経障害形式および症候により馬尾型,神経根型,混合型に分類される1-5).馬尾,神経根の障害は狭窄による絞扼そのもの,あるいはそれによる血流障害,特に静脈のうっ血による浮腫によると考えられている1-4).

これらの症状のうち,疼痛やそれに関連した神経性間欠跛行,しびれ,異常感覚などは神経ブロックの適応となり7-15),各症状に応じた神経ブロック療法を行う.なかでも神経根ブロックは手術に移行する際に,その決定や障害神経根の高位診断に有用で除圧部位を決める指標にもなる17-19).神経根型では神経根ブロックで一時的に自覚症状が消失し,24時間以上の症状の寛解が得られれば保存的治療の継続が可能であるともされる19).馬尾性間欠跛行を呈し下垂足,勝胱・直腸障害など神経学的欠落症状を呈する場合は観血的治療の適応となり得るが,手術を希望しない場合や全身合併症で手術が困難な場合にも神経ブロックは有効かつ患者の満足度も比較的高い治療手段となる7-16).

因みにこの疾患の5年以上の追跡調査による自然経過では,自覚的には約60%が症状不変であるのに対して他覚的には約55%が悪化しているとの報告もあり20),この疾患の治療法を決定する際に自覚症状が優先され,他覚的な重症度だけでは手術適応を決められないことを示している21).

b.神経ブロック治療指針

①腰部硬膜外ブロック・仙骨ブロック:この治療法のRCTは一件見つかった.其れによると,L3/4かL4/5の腰部硬膜外ブロックの単回施行による間欠跛行の改善においては1週間後の時点で有意差を認め,1ヵ月後,3ヵ月後では有意差を認めていない22).仙骨ブロックに関するものでは,有効性は不明だが,1回/過で3回施行し,その後4ヵ月から10ヵ月まで疼痛緩和に有意差が認められた23). これらブロックの中等度以下の有効性の報告では腰痛,下肢痛・しびれ,間欠跛行に対して有効率50~70%である7,10,12,13,24).これらは短期かつ数回のブロック施行によるものであり,長期間に亘る報告は見つからなかった.施行回数は1~3回/週の頻度で行う8-11,14,23).局麻薬にステロイドを添加する方法は神経根刺激症状には炎症を伴っていると言う考えに基づいているが,その効果については数々の論争がある11,13,22,24,25,31). しかし14日に1回程度,局麻薬にステロイドを添加すると鎮痛効果が良好になる場合が多い.神経周囲投与となるので懸濁液のステロイドの使用は避けることが望ましい13). また狭小な脊柱管に硬膜外カテーテルを挿入すると症状悪化の恐れがある.

②椎間関節ブロック:この治療法のRCTは見つからなかった.症例集積による報告では,変形性脊椎症,辷りや分離を伴う腰臀部痛や大腿部痛に対して有効率50~70%である7,13,26).しかし慢性腰痛に対する本ブロックの疼痛緩和における有意差はないとするものもある31).

③神経根ブロック:この治療法のRCTは2件見つかった.1件は本ブロックにより手術を必要としている症例の70%で手術を回避できたとしており27),もう1件は局麻薬+ステロイドと生食によるRCTで,2週目では有意に前者で下肢痛が軽減しているが,6ヵ月後では両者ともに下肢痛の軽減は得られているが有意差は認められていない28).中等度以下の有効性の報告では,神経根型のものに60%前後で下肢痛・間欠跛行に有効である7,9,10,13,29).神経根ブロックは,自覚症状,神経学的所見,画像検査などから罹患神経根を推定して行う.なお神経根損傷の危険性もあるので,同一神経根では10日から14日に1回の頻度で,3回/月までとする8,9,11,29,30).神経根高周波熱凝固法も考慮される14).

④後枝内側枝ブロック:この治療法のRCTは認められなかったが,②に準ずる.後枝内側枝高周波熱凝固法も考慮される14).

⑤大腰筋筋溝ブロック:この治療法のRCTは認められなかった.有益性は不明.片側性の腰痛,鼠径部痛,大腿および膝部痛に対して考慮され,施行する場合は1回/週の頻度で3~4回/月ほど行う.

⑥トリガーポイント注射:慢性腰痛に対するRCTがあり,疼痛緩和有効率60~80%である31).

腰部傍脊柱筋の反射性の筋緊張部位や圧痛点に,2~3回/週の頻度で行なう.

⑦腰部交感神経節ブロック:本ブロックによって神経根や馬尾神経の血流が改善し,間欠跛行が軽減する例があり,また椎間板性の腰痛にも有効であるので考慮する.この治療法のRCTは見付からなかった.有益性は不明であるが,しびれ,間欠跛行に対して有効率24%~48%である32,33).

C.注射療法

①椎間板内ステロイド注入:この治療法のRCTは見付からなかった.症例報告で有効性が示されている34).

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※「ペインクリニック治療指針」から抜粋