複合性局所疼痛症候群(complex regional pain syndrome : CRPS)

a.病態・治療

組織損傷後に疼痛などの症状が異常に遷延するもので,神経損傷が明らかでないものをCRPS typeI(従来の反射性交感神経性ジストロフィー),明らかなものをCRPStypeⅡ(従来のカウザルギー)と定義する.CRPSとは局所の灼熱痛,感覚過敏,アロディニア,浮腫,皮膚血流の変化,発汗異常,皮膚・関節・筋肉の栄養障害などのうちいくつかの症状を伴うものをいう.慢性期になるといかなる治療にも抵抗を示すので,本症が疑われた場合には早期に疼痛の緩和を図り,機能改善を目的とした理学療法を積極的に行うことが重要である.

組織損傷の後に一部の人にのみ発症する理由は明らかではない.CRPSの発症と慢性化には受傷様式,遺伝的素因,ギプスなどの固定の程度と期間,痛みの感受性の個人差,機能改善に対する積極性,病態に対する理解度,疾病利得など複数の因子が関与するので,それぞれの因子を考慮に入れ,個々の症例にあった目標を立てて治療することが重要である1).

CRPSに関しては,1994年に定められた診断基準はあるものの疾患概念について十分に統一されていないのが現況で,どのような症例をCRPSとするかについては明確でない部分がある.CRPSは理学療法,薬物療法,神経ブロック,場合によっては手術的治療法など集学的な治療を行うことが重要とされている.神経ブロック以外の治療には,理学療法があり,温熱療法や温冷交代浴などにより,患部に刺激を与え,疼痛の緩和や筋肉の弛緩を図る.運動療法の前処置として行う.星状神経節へのレーザー照射の効果も期待できる2).運動療法には,関節可動域訓練,筋力強化訓練3)などがあり,症例に応じて計画して慎重に実施することが重要である.

薬物療法としては.皮膚温の上昇や浮腫など炎症機転が関与していると考えられる急性期の症例では,NSAIDs4),副腎皮質ホルモン5,6)などの投与を行う.抗うつ薬は持続性のしびれるような疼痛,及び併発する意欲の低下や抑うつ気分などのうつ症状に対して種類や量を慎重に選択しながら併用する.抗てんかん薬は,持続性のしびれるような疼痛,発作性の疼痛に対して用いる.薬剤としてはカルバマゼピン7),フェニトイン,クロナゼハム,バルプロ酸などを症例に応じで慎重に用いる.治療抵抗性の場合には,少量のケタミンを投与する8).

b.神経ブロック指針

CRPSに対しては,以下に記述した神経ブロックを症例に応じて施行することが大切である.

交感神経節ブロックはCRPSの一部の症例に有効であるとされているが異論もある9).疼痛の軽減が得られる場合には繰り返し行う.疼痛の改善とともに機能の改善も期待できる.

交感神経節ブロックでの効果が不十分な場合は,末梢神経ブロックを追加することが勧められる.

安静時にも強い疼痛がある急性期の場合には,持続硬膜外ブロックも考慮する.方針としては,効果があると判断できる場合には連日繰り返し行い,効果がない場合には神経ブロック療法には固執せず,その他の方法を検討することも重要である.

ア.急性期(受傷後6ヵ月未満)疼痛の強い例では,入院加療を考慮する.

1)罹患部位が上肢の場合

①星状神経節ブロック:1回/日の頻度で行ない,症状に応じて増減する.

②頸部・胸部硬膜外ブロック:星状神経節ブロックと併用で行なう.軽症では2~4回/週の頻度で行ない,症状に応じて増減する.重症では入院が望ましく,持続硬膜外ブロックで最長2ヵ月間程度を目安に継続する.鎮痛が不十分な場合には,局麻薬の間欠的注入を併用し,また慎重にモルヒネ(1~5mg/日)やブプレノルフィン(0.1~0.3mg/日),フェンタニル(0.2~0.5mg/日)を添加して併用注入する.

③胸部交感神経節ブロック:星状神経節ブロックで数時間の効果が認められれば,神経破壊薬,あるいは高周波熱凝固法による胸部交感神経節ブロックを考慮するが,その適応は慎重に行うべきである10,11).

④局所静脈内交感神経ブロック:上肢罹患の場合,1~2回/週の頻度で行ない,症状に応じて増減する12,13).

⑤局所静脈内ステロイド注入:上肢のCRPSで浮腫の著しい場合,1%リドカイン20mlにベタメサゾン6-20mg/回を使用し1~2回/週の頻度で行う13).症状にあわせて増減する.

関節拘縮の著しい症例では,非観血的関節受動術を併用する.浮腫の軽減が得られれば,ステロイドの使用は中止する.

⑥末梢神経ブロック:局在性の痛みでは,腕神経叢ブロックなどの末梢神経ブロックを併用する.

1~3回/週の頻度で行ない,症状に応じて増減する.

⑦神経根ブロック:痛みが強い場合は,10日~14日あけて月3回までを限度として施行する.

その適応は慎重に行い,症状に応じて加減する.

2)罹患部位が下肢の場合

①胸・腰部硬膜外ブロック14):当該領域の高さで,軽症では2~4回/週の頻度で行ない,症状に応じて増減する.重症では入院が望ましく,持続硬膜外ブロックで最長2ヵ月間程度を目安に継続する.鎮痛が不十分な場合には,局麻薬の間欠的注入を併用し,また慎重にモルヒネ(1~5mg/日)やブプレノルフィン(0.1~0.3mg/日),フェンタニル(0.2~0.5mg/日)を添加して併用注入する15).

②腰部交感神経節ブロック:胸・腰部硬膜外ブロックで効果が一時的な場合には,神経破壊薬あるいは高周波熱凝固法にて腰部交感神経節ブロックを考慮する16).その適応は慎重に行う.

③局所静脈内交感神経ブロック:下肢罹患の場合,1~2回/週の頻度で行ない,症状に応じて増減する.

④局所静脈内ステロイド注入:下肢のCRPSで浮腫の著しい場合,0.5%リドカイン40mlにベタメサゾン6-20mg/回を使用し1~2回/週の頻度で行う.症状にあわせて増減する.関節拘縮の著しい症例では,非観血的関節受動術を併用する.浮腫の軽減が得られれば,ステロイドの使用は中止する.

⑤末梢神経ブロック:局在性の痛みでは,末梢神経ブロックを1~2回/週の頻度で併用し,症状に応じて増減する.

ィ.慢性期(受傷後6ヵ月以上)

症状に応じて神経ブロックを行ってもよいが,この時期になると多くの場合効果はあっても一時的であるので,状況や症例に応じてブロックの種類や回数に配慮する.神経破壊薬を用いた神経ブロック,高周波熱凝固法は,慎重に適応を判断し責任を持って経過をみることが必要である.

C.手術療法

症例に応じて,疼痛除去用脊髄刺激装置植込術17),脳深部刺激法,大脳皮質運動野刺激法18),脊髄後根侵入部破壊術,胸腔鏡下交感神経節切除術などを考慮する.しかし,その適応は慎重に判断し,継続的に経過を見ることが必要である.

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※「ペインクリニック治療指針」から抜粋