絞扼性末梢神経障害

a.病態と神経ブロックの適応

末梢神経の走行中,解剖学的トンネル部位(手根管,足根管など)あるいは骨や索状物に接して方向転換をする部位(腓骨頭,鼠径靱帯など)で絞扼を受け,その支配領域に一致した痛みや感覚障害,支配筋の筋力低下や萎縮が生じる病態をいう.絞扼部位でのTinel徴候陽性,神経伝導速度の低下を確認すれば診断は確実である.骨変形や外傷などの機械的刺激によって,神経上膜・周膜の線維化,神経束内・外の血流障害により神経束内浮腫が惹起され,その結果,軸索内輸送が妨げられて神経障害が起こる.

急性期は局所の安静保持が基本で,副子や装具の装着を行ない,非ステロイド性抗炎症薬(内服,外用)・ビタミンB12などを用いる.神経ブロック療法も有用で,絞扼部位での末梢神経ブロック(局麻薬とステロイド)のほか,上肢では星状神経節ブロック,下肢では腰部硬膜外ブロックを行なう.

神経脱落症状が明らかな場合,あるいは保存的治療が無効の場合は手術療法(開放・除圧術,神経移行術)を考慮する.

b.神経ブロック治療指針

①末梢神経ブロック:絞扼部位を正確に同定の上,局麻薬2~3mlにステロイドを添加し,細い針(27ゲージ程度)を用いて行なう.神経を探らないように注意し,もしも放散痛が生じた場合はそこでの注入は少量にとどめ,針を少し抜いてから残量を注入する.1回/週の頻度で8~10回程度行なう.

②星状神経節ブロック:上肢の絞扼性神経障害に対して,上肢全体の疼痛,だるさ,違和感が強ければ2~3回/週の頻度で行ない,効果に応じて増減する.

③腰部硬膜外ブロック:下肢の絞扼性神経障害に対して,下肢全体の疼痛,だるさ,違和感が強ければ2~3回/週の頻度で行ない,効果に応じて増減する.

④交感神経ブロック:上肢では星状神経節ブロック,下肢では腰部硬膜外ブロックの効果が一時的な場合は,神経破壊薬または高周波熱凝固法による当該交感神経ブロックを考慮する.

C.手術療法

①胸腔鏡下交感神経遮断術:上肢の絞扼性神経障害に対して,星状神経節ブロックや胸部交感神経節ブロックの効果が一時的な場合に,より確実性と長期的効果を求めて考慮する.

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※「ペインクリニック治療指針」から抜粋