腰椎椎間板ヘルニア

a.病態と神経ブロックの適応

腰椎椎間板の線維輪に形成された亀裂・断裂部より,髄核や線維輪が脊柱管内あるいは椎間孔内外へ転位して馬尾あるいは神経根に障害を与えている状態である1,2).好発年齢は20~40歳代で,発生高位はL4/5,L5/S1,L3/4の順に多い1,2).その症状は腰痛,下肢痛,下肢のしびれ,筋力低下,勝胱・直腸障害などである1,2).これらの発生にはヘルニアの機械的圧迫因子,炎症反応による化学的因子,神経根内の虚血などが関与している1,2).

治療は保存療法と手術療法がある.MRIによる追跡調査ではヘルニアの自然消失,縮小が起こることが観察されており3,4),下肢の著明な筋力低下・感覚低下,膀胱・直腸障害などの神経脱落症状が明らかな場合,患者が手術を希望する場合以外は保存療法が基本である1,2).その保存療法の有効率は44~86%である5-7).また2~6ヵ月程度3,8-11)の十分かつ積極的な保存療法によっても疼痛管理が困難な場合も手術療法が考慮される1,2).因みに保存療法と手術療法のRCTが1件あり,有効率は1年後でそれぞれ61%,90%,10年後で93%,92%で短期的には手術療法が保存療法より有効であるが,長期的には同等の成績であるとしている12).神経ブロックの適応は急性期,慢性期の下肢痛と急性期の腰痛である1,2,13).

b.神経ブロック治療指針

①腰部硬膜外ブロック・仙骨ブロック:この治療法のRCTは1件見つかった.入院2週間以内に3回,局麻薬とステロイドでブロックを行ったものとブロックを行わない保存療法を施行したRCTで,2週間後では前者でSLRテストの有意な改善を示すが,鎮痛効果,活動性は改善するものの有意差はなく,6週間後には両者に有意差を認めていない14).症例集積による報告では有効率42~74%で疼痛が軽減し発症前の日常生活を獲得している15-19).1回注入法で1~4回/週の頻度14,15)から次第に漸減し,症状が十分にコントロールされるまで行う.疼痛が強い場合は入院が望ましく,硬膜外カテーテルを神経根の刺激とならないように注意して留置し,持続注入またはこれに間欠注入を併用した方法を行う16,17,19).また鎮痛が不十分な場合は慎重にブプレノルフィン(0・1mg/日)やモルヒネ(2mg/日)などの併用を考慮する.局麻薬にステロイドを添加した場合の鎮痛効果については確立されていない20)).またヘルニアの自然消失に対するステロイドの影響についても相反する意見がある3,21).周囲組織への影響を最小限にするため懸濁液のステロ

イドの使用は避けることが望ましい22).

②神経根ブロック:この治療法のRCTは1件見つかった.局麻薬+ステロイドと生食によるRCTで,2週目では局麻薬+ステロイドで有意に下肢痛が軽減しているが,12ヵ月後では両者ともに下肢痛の軽減は得られているが有意差は認められていない23).また12ヵ月後の手術率はともに20%前後である.症例集積による報告では,有効率は27~80%で下肢痛の軽減,手術回避が得られている19,23,24).神経根損傷の危険性もあるので,同一神経根では10日から14日に1回の頻度で,3回/月までとする13,25).また神経根ブロックの変法として硬膜外洗浄・神経根ブロックの有用性が報告されている26).

③トリガーポイント注射:急性腰痛では有益性は不明だが,慢性腰痛では疼痛緩和有効率60~80%であり27),患者の満足度は高い28).腰部傍脊柱筋の反射性の筋緊張部位や圧痛点に,2~3回/週の頻度で行う.

④大腰筋筋溝ブロック:有益性は不明だが,50%の改善率の報告がある29).片側性の腰痛,鼠径部痛,大腿部および膝部痛に対して考慮され,1回/週の頻度で3~4回/月ほど行う.

⑤末梢神経ブロック:有益性は不明だが,坐骨神経ブロックと腓骨神経ブロック13),外側大腿皮神経ブロックがある28).2~3回/週の頻度で行う13).

C.注射療法

①椎間板内注入法およびヘルニア腫瘤内加圧注入法:椎間板内注入法にはステロイドを注入する方法と生食で加圧注入した後ステロイドを注入する方法がある.症例集積による報告では椎間板内注入法のそれぞれの有効率は50%22),44~68%30,31),ヘルニア腫瘤内加圧注入法の有効率は75%32)である.椎間板内注入法には局麻薬+ステロイドと局麻薬のみのRCTが1件あり,その有益性はないとしている33).同一椎間の注入回数は②~3回とする22.30-32).

d.手術療法

①経皮的髄核摘出術:有益性は不明であるが,適応を厳格にし,少量髄核摘出を行った症例の10年以上の有効率は72%である34).

②経皮的レーザー腰椎椎間板除圧術:適応を選べば35),症例集積による有効率は75~89%である36).

③エピドラスコピー(硬膜外腔内視鏡):有益性は不明であるが,椎弓切除術と比較すると術後の鎮痛薬の使用状況や仕事への復帰率に有意差があるとする報告がある37).

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※「ペインクリニック治療指針」から抜粋