頸椎症性神経根症
a.病態・治療
頸椎症性変化による骨棘などが椎間孔周辺に形成され,神経根の絞扼性障害が起こることが原因となる.当該神経根の支配領域に疼痛,感覚障害,筋力低下,筋萎縮などが生じる.頸部痛が初発症状であることが多く,引き続き上肢の持続痛や放散痛,しびれが出現する.また肩甲上部,肩甲間部の痛みを伴う.頸椎の運動や位置によって疼痛やしびれの程度は左右されやすく,胸背部へ放散することもある.定型的な場合には,神経学的所見だけで責任神経根の高位診断が可能である.神経根痛はC7,C6,C8,C5の頻度で生じる1,2).2根同時に障害されることは稀である3).
頸椎症性神経根症は,保存的治療が有効であるとの報告が多い4,5).保存的療法の目的は,自然経過よりすみやかに疼痛としびれを軽減・消失させることであり,ひいては手術を回避し,脊髄症状の出現を予防することである6).日常生活指導,頸部のポジショニング,装具療法,牽引療法は,神経根に加わる機械的刺激の減少と局所免荷による神経根の除圧により神経根炎を消過させることが目的である7).
疼痛に対する薬物療法としては,非ステロイド性抗炎症薬が頻用される.経口ステロイド薬の評価は定まっていないが,臨床的有用性は報告されている6,8).神経ブロックは,他の保存的療法と組み合わせることにより効果的な疼痛コントロール手段となり,診断的にも有用である.保存的治療で症状改善が得られず日常生活あるいは就労に支障がある場合は手術療法を考慮する.
b.神経ブロック治療指針
①トリガーポイント注射頸部,肩,背部などの圧痛点や筋緊張部位に対して,2~3回/週の頻度で行う.通常の局麻薬の代わりに塩酸ジブカイン配合剤(ネオビタカイン®)を用いたり,ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液(ノイロトロピン®)や少量のステロイド剤を混注したりする場合もある9).
②星状神経節ブロック
他のブロック療法と併用することにより相乗効果が得られるとの報告がある10).近年その基礎的メカニズムについての研究も出てきている11).神経根の刺激症状や麻痺症状(感覚・筋力低下)が強い場合,14日程度は連日行う.一般には,急性期(1~2ヵ月間)は3~4回/週の頻度で行い,その後は1~2回/週程度とする.
③腕神経叢ブロック
頸椎症性神経根症患者29例に対する腕神経叢ブロックの1週間後の有効性は65.5%との報告がある12).腕神経叢の中心であるC6・C7根の治療効果がその他の神経根に比べて治療効果が高い13).透視下で針先を第一肋骨に当て,中斜角筋筋膜内へ少量の造影剤を添加した薬液(局麻薬とステロイドの混合液など)を注入することで腕神経叢をブロックする方法は気胸や神経損傷などの合併症の可能性も低く,外来での通常の治療法として選択できる手技として推奨される14,15).神経根の刺激症状が強い場合に2~3回/週の頻度で施行する.
④硬膜外ブロック
1回注入法では2~3回/週の頻度で行う.硬膜外ステロイド注入療法は有効であり16,17),繰り返し行う方法18)や,硬膜外カテーテルを留置して持続注入する方法も効果的であるとの報告がある19,20)が,その適応については注意を要する.重症例では入院が望ましく,連続注入法を1~2週間の目安で行う.その際,硬膜外カテーテルは神経根の刺激とならないように注意して留置し,局麻薬は上肢の運動麻痺が起こらないように低濃度で用いる.鎮痛が不十分な場合は局麻薬の間欠注入,また慎重にモルヒネやブプレノルフィンなどを添加して持続注入する.
⑤神経根ブロック
強い根性痛を有する症例に対して有効であり,高位診断のための機能診断法としても有用である21,22).神経根ブロックは,星状神経節ブロック,腕神経叢ブロックなどで十分な鎮痛効果を認めない症例に対して行う場合が多いが,症例に応じて初回に行うこともある.原則として局麻薬にステロイドを添加して行う23).頻繁に行うと神経根損傷の危険性もあるので24),10日から14日に1回の頻度で,3回/月程度までとする.局麻薬を用いた神経根ブロックで一過性効果しか得られなかった難治症例に対して高周波熱凝固を行うと有効であるが,一時的に軽度筋力低下を認めることもあるので注意を要する22).
--
※「ペインクリニック治療指針」から抜粋