頸椎椎間板ヘルニア
a.病態・治療
加齢による退行性変化あるいはスポーツや労働による慢性反復性の負荷から,頸椎椎間板の線維輪の変性・亀裂が生じ,何らかの外力によって髄核が脱出する病態をいう.脊柱管内への脱出方向から,正中ヘルニア,傍正中ヘルニア,外側ヘルニアに分類される.外側ヘルニアは神経根を圧迫して,頸から肩にかけての激痛で始まり,徐々に障害神経根に一致した上肢あるいは手指への放散痛,しびれなどが生じる神経根症状を呈する.正中および傍正中ヘルニアは脊髄を前方から圧迫して,痙性歩行,]勝胱機能障害などの脊髄症状を呈する場合がある.発生部位は下部頸椎間が多く,頸部の後屈によって症状が増強する.男性に多く,40-60歳台に多い1).診断は症状,神経学的所見そして画像診断(主にMRI)によって行う.
軽症例や神経根症例では安静,保存療法を選択する.薬物療法として非ステロイド性抗炎症薬と中枢性筋弛緩薬およびステロイド薬を用い,理学療法として温熱療法や頸椎牽引,星状神経節近傍光照射2)などを行い,頸椎装具を使用する.神経ブロックは保存療法として疼痛,しびれに対して行い,
また手術までの疼痛制御のために行われる.MRIによる長期追跡調査では,ヘルニアの自然吸収が起こることが観察されており,症状が十分にコントロールできれば保存的に治療されるべきであるとの報告がある3).しかし重度の頸髄症や保存的治療によっても神経症状が進行する場合や,感覚・筋力の低下が軽減せずADL障害が明らかな場合は手術療法を考慮する1-8).
b.神経ブロック治療指針
①星状神経節ブロック9):神経根の刺激症状や麻痺症状(感覚・筋力の低下)が強い場合は,14日程度は連日行う.一般には急性期(1~2ヵ月間)は3~4回/週行い,その後は1~2回/週程度とする.
②頸部硬膜外ブロック10-12):特に根症状がある場合に有用である10).2~3回/週の頻度で行う.
14日に1回程度,局麻薬にステロイドを添加すると鎮痛効果が良好となる.重症例では入院が望ましく,局麻薬を用いた連続注入法を1~2ヵ月間の目安で行う.その際,硬膜外カテーテル
は神経根の刺激とならないように注意して留置し,局麻薬は上肢の運動麻痺が起こらないように低濃度で用いる.鎮痛が不十分な場合は局麻薬の間欠注入,また慎重にブプレノルフィン(0.1~0.3mg/日)やモルヒネ(1~5mg/日)などを添加して持続注入する.
③神経根ブロック:責任神経根の診断にも重要であり,局麻薬にステロイドを添加して行う.痛みが強い場合は,同一神経根に対しては10~14日あけて3回/月まで施行する.1回の神経ブロックでも19%が有効である13).
④腕神経叢ブロック(鎖骨上法または斜角筋開法)14,15):神経根の刺激症状,特に頸椎の第6,7の神経根障害に有用である.同側腕神経叢に対しては10~14日あけて3回/月まで施行する.痛みが強い時にはステロイドを添加して施行する.施行例の62.5%で有効だったとの報告がある
14).
C.注射療法
椎間板内ステロイド注入:椎間板造影検査の際にステロイドと局麻薬の混合液を注入する.椎間板線維輪最外層や後縦靱帯に分布する脊椎洞神経由来の疼痛治療に有用である16).施行例の73%で有効だったとのとの報告がある13).
d.手術療法
経皮的髄核摘出術またはレーザー減圧術:後縦靭帯穿破していない症例に適応がある17,18).
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※「ペインクリニック治療指針」から抜粋