神経根ブロック
神経根ブロックとは,脊髄神経根およびその周囲に局麻薬とステロイドの混合液を注入する神経ブロック法である.責任神経根の診断目的のために,疼痛の緩和程度やその造影所見から病変高位診断が行える.
1.解剖1)と生理2,3)
脊髄神経根は頸神経8対,胸神経12対,腰神経5対,仙骨神経5対,尾骨神経1対の計31対で,椎間孔を通り脊柱管から出ている.頸神経根は,第1頸神経は後頭骨と第1頸椎(環椎)の間から,第8頸神経は第7頸椎と第1胸椎の椎間孔から出る.第2から第6頸神経は,同じ番号の頸椎の頭側の椎間孔から出る.胸神経根は,同じ番号の胸椎の尾側の椎間孔から出る.腰神経根は,同じ番号の腰椎の尾側の椎間孔から出る.仙骨神経根の後枝は後仙骨孔を通り脊柱管を出る.前校は前仙骨孔を出て仙骨神経叢を形成する.
神経根ブロックの効果は,局麻薬やステロイドによる効果と薬物注入による神経根周辺の癒着や炎症性滲出液を取り除く物理的効果も推測されている.
局麻薬による効果は,感覚・運動・交感神経の遮断による疼痛の軽減,筋力の低下,血流の増加などがある.ステロイドによる効果は,神経根周囲の抗炎症作用,C線維活動を一定期間抑制する効果が考えられている.
2.手技および施行上の注意点
薬剤:1~2%リドカインおよびそれに準ずる局麻薬2~3mlにステロイド(デキサメタゾン2~4mgもしくはそれと同等なもの)を添加する.
針先の位置確認のためには脊髄造影でも使用できかつ副作用の可能性が少ない非イオン性水溶性造影剤(イオトロラン(イソビスト®)やイオへキソール(オムニパーク®)など)を1~10ml使用する.
神経根ブロックは部位により体位,刺入方法などが大きく変わり,起こりやすい合併症も違ってくる.どの場合でも正しい透視方向のⅩ線透視下で刺入することが確実なブロックにつながり合併症も避けることができる.そのため目的とする椎体終板のラインが透視下で一直線になるように調整する.神経への穿刺時に支配領域の放散痛が得られ,造影剤注入により神経根の造影が見られた場合は,治療効果が高いことが多い.しかしむやみに放散痛を求めて穿刺を繰り返すことは神経損傷などの合併症を起こしやすいため避ける配慮が必要である.
頸部神経根ブロック4,5):C2(C1)神経根ブロックの場合はⅩ線透視台の上に腹臥位となり開口位で入射角を調節して穿刺する後方アプローチ法が一般的である.C3~C8神経根ブロックの場合は,仰臥位で前方より穿刺する前方アプローチ法,腹臥位で後方から穿刺する後方アプローチ法,仰臥位で頭部を健側に向ける側方アプローチ法,側臥位で行う後側方アプローチ法などがある.頸部神経根ブロックは,血管穿刺やクモ膜下腔注入,脊髄穿刺など重篤な合併症が多く,呼吸管理や循環管理が行える体制で行う必要がある.ブロック後は60分以上安静臥床し,合併症の有無を確認してから帰宅させることが重要である.
胸部神経根ブロック6,7):Ⅹ線透視台の上に腹臥位となり後方から行う後方アプローチ法と斜位で行う斜位法がある.胸部神経根ブロックも,血管穿刺やクモ膜下腔注入,脊髄穿刺,気胸,食道穿刺などの合併症があるため,呼吸管理や循環管理が行える体制で施行し,ブロック後は60分以上安静臥床し,呼吸困難などの合併症の有無を確認してから帰宅させることが必要である.
腰部仙骨部神経根ブロック8,9):Ⅹ線透視台の上に腹臥位となり後方から行う腹臥位法と斜位で行う斜位法がある.この部位の神経根ブロックでは下肢の脱力が起こるので必ずブロック後は60分以上安静臥床し,合併症の有無を確認してから帰宅させることが重要である.
3.合併症
一般的な神経ブロックと同様,針の穿刺にともなう出血,感染などの可能性がある.放散痛を求めすぎて何度も穿刺を繰り返したりすると神経損傷を起こす危険性もある.そのため同一神経根ブロックでは,10日から14日あけて月3回を限度とすることが望ましい.また,針先の位置によっては,くも膜下・硬膜下・硬膜外ブロックとなる可能性もあり注意が必要である.また,前脊髄動脈症候群を併発した症例の報告もある10).
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※「ペインクリニック治療指針」から抜粋