認知症

周りのことを理解し考え,バランスを取りながら意欲的に行動する主役が脳です.この脳の働きが,ゆがみ弱まるのが認知症です.その原因によって,アルツハイマー型認知症,レビー小体型認知症,前頭側頭型認知症,脳血管性認知症などがあります.ご本人の生活の質が落ちるだけでなく,ご家族が心を乱し,深く傷つく認知症について診てみましょう.

どんな症状?

どの症状でも必ず進むのが,認知症の特徴です.

●主な症状(認知症の中核症状)

考えがまとまらなくなる(思考障害)

物が覚えられなくなる(記憶障害)

物の良しあしが分からなくなる(判断力低下)

今どこにいるか分からなくなる,今日が何日か分からない(失見当識)

人の話が分からず,話すこともままならない(言語障害)

ドアを開ける,靴下をはくなどの日頃の動作がうまくできなくなる(失行)

人や物を間違える(失認)

軽くぼーっとし,わけの分からないことを言う(せん妄)

やる気がなくなる(意欲低下・抑うつ)

●その他の症状(認知症の周辺症状)

怒りっぽくなる(易怒性・興奮)

物事を悪く捕える,気が滅入る,暗いことばかり言う(抑うつ)

夜眠れない,その代り昼寝をする(昼夜逆転・睡眠障害)

周りの人が理解できないことを言う(妄想)

●ご家族への影響

ご本人と話がうまく通じず苛立ち,つじつまが合わない行動に戸惑います.また,尊敬してた家族の人格がゆがむのを見て悲しむ,何をしてもうまくいかないことからやる気がなくなり,うつに陥るなどご家族の心と体と生活に深く影響します.

無症状が一番怖い

年齢と共に脳の働きは弱まります.しかし,脳は弱い部分を他が補うため,認知症の症状はなかなか出ません.例えば,ボールペンという名前が出てこなくても,これと指させば生活はできます.「何か変だなあ」と本人や家族が気づいた時には,脳の状態はかなり進んでいます.

●何で気がつくの?

家族が「前とはどこか違う」と感じ始めてしばらく経った時,物を置き忘れるなどのエピソードで気づくことが多いです.

メタボなどのかかりつけ医はずっと見ているため,ご家族と同様,ご本人の認知症になかなか気づかない場合があります.むしろ,たまたまかぜやけがなどでかかった医院で見つかることがあります.

健診などで脳のMRIを撮り,偶然見つかることもあります.

●放っておくと?

認知症は脳の老化でもあるので,自然に治ることはありません.確実に症状が進みます.「~さん,朝飯はまだか」「財布が取られた」などの有名な症状が出る頃には,家庭内がギクシャクし始めます.迷子や交通事故など命に係わるトラブルが起こると,家庭の雰囲気は一気に悪化し,生活が一変します.さらに進めば,自力で生活ができなくなり,寝たきりとなって亡くなります.

どんな検査?

血液や画像などの検査で結果が出ないこともあり,根気強い診察で症状の変化を観察するのが重要です.

●血液や尿の検査

メタボなど認知症を悪化させる病気の検査

認知症に似た病気の検査

貧血・肝・腎機能などの一般的なチェック

●画像検査

院内画像検査

エコー検査,レントゲン

院外画像検査

MRI(脳の大きさや血管の詰まり具合,脳梗塞の度合いなど認知症の原因となる部位の特定)

CT(脳血管をMRIより細かく見ます)

脳シンチ・PET(脳の血の巡りや働きを診ます)

●他の検査

認知症の度合いを見るための質問が多数あります.例えば長谷川式認知症スケール(HDS),時計テストなど.

●他の病気と副作用をチェック

検査は安心して診療できるようにするためのおまもりです.他の悪い病気がないか,副作用が出ていないかをチェックするのが第一の目的です.

どんな治療?

●一般的な生活改善

メタボなどの背景となる病気をしっかり治療します.手術などの必要がない限り,入院などを避け環境を一定に保ちます.いつもと同じ生活をしながら,じっくり療養することが大切です.

運動中心の生活リズムと食事などのバランス.

●お薬

アルツハイマー型認知症:コリン・エステラーゼ阻害薬(アリセプトなど),NMDA受容体拮抗薬(メマリーなど)

レビー小体型認知症:薬が強く効くので,アルツハイマー型認知症のお薬を少量から始めます.

前頭側頭型認知症:適切な安定薬

脳血管性認知症:虚血性脳血管障害のお薬に準じます.

●他の治療

徐々に進む症状をなるべく遅らせるよう,家庭や外来でリハビリを続けます.

体や頭を使う作業(例えば少し複雑な体操やパズル,漢字や算数ドリル)

診療のながれ

●しらべる

病歴と診察,MRIなどで認知症を確定します.

●ととのえる

2~4週ごと:血液や尿の検査などから,

1~2週ごと:症状や生活の様子から,生活改善の仕方やお薬,リハビリ内容を調整します.

●おちついたら

2~4週ごと:生活改善の確認とお薬とリハビリ.

2~4か月ごと:血液や尿の検査.

半年~毎年:院内画像検査/1~2年ごと:院外画像検査

他には?

ご本人の症状が進むにつれ,少しずつ生活が大変にります.ご家族がご本人に費やせるのは一日に2時間程度です.それ以上では長続きしません.医療だけでなく,介護などを含め地域で支える体制を作ります.

ほどほど,コツコツでだいじょうぶ

日々の生活をととのえ,コツコツと診療を続けていけばだいじょうぶです.