硬膜外ブロック  ~ 体の痛みは必ずよくなります●あきらめず じっくりと●

硬膜外ブロックとは,顔面を除き,ほぼ全身において必要とされる部位の除痛を選択的に得ることを目的としたブロック治療である.カテーテル留置により持続的に除痛を行うことが可能となる.したがって,どのような疾患に起因する痛みにも除痛手段としての適応はあるが,心・呼吸不全状態や多臓器不全・ショックにあるもの,出血・凝固障害(疾患や薬剤による)や明らかに易感染性の状態にある免疫不全の患者にその適応はない1,2).
1.解剖と生理
脊髄は軟膜,くも膜,硬膜の3つの膜に保護されて脊柱管の中に入っており,最外層の硬膜はくも膜と密着している.硬膜外ブロックでは,黄靭帯と硬膜との間の硬膜外腔に薬液を注入する.脊髄の硬膜外腔は頭蓋底の大後頭孔から仙骨裂孔に至る1,3).
局麻薬が脊髄神経に浸潤し,間接的に作用することにより,作用領域の交感神経・感覚神経・運動神経のブロックが生じる(分節ブロック).通常は細い神経線維から遮断されるため,低濃度の局麻薬を使用すれば交感神経ブロックが第一に生じ,高濃度の局麻薬を使用すれば運動神経の遮断も得られる(分離ブロック).それらの作用に伴い,血圧低下や呼吸抑制,支配筋の脱力が生じることもある4).
2.手技および施行上の注意点薬剤:使用する局麻薬はリドカインおよびそれに準ずる局麻薬である.1回の注入量は年齢,症状,全身状態にあわせて適宜使用量を決定する.方法として薬液を1回注入して針を抜く1回硬膜外注入法と,カテーテルを留置して行なう持続硬膜外注入法がある.
刺入部位は作用させたいと考える支配神経に対応した椎弓間隙より頸部硬膜外,胸部硬膜外,腰部硬膜外ブロックを,仙骨裂孔より仙骨硬膜外ブロックを,正中法または傍正中法で,硬膜外ブロック専用針を用いて行なう.
●硬膜外ブロック(1回注入法)
0.5~2%リドカイン5-10ml.ただし,仙骨硬膜外ブロックでは0.5~2%リドカイン10~20ml程度用いる.
●硬膜外ブロック(持続法)
カテーテル留置は1回注入法より太い硬膜外ブロック専用針を用いて,通常は頭側にむけてカテーテルを5cm程度硬膜外腔に留置する.
①持続注入法
精密持続注入器を用い,硬膜外留置カテーテルより0.5~2.0%リドカイン0.5~4ml/時で持続的に注入する.なお,局麻薬だけでは鎮痛が不十分な場合に,慎重にモルヒネ(1~5mg/日)やブプレノルフィン(0.1~0.3mg/日)などを併用注入することもある.
持続注入法では,使い捨て持続注入ポンプや精密注入装置を使用して持続注入を施行する他に,患者が自己の痛みに応じて追加投与が可能なPCA機能が備わったポンプもある.
②間欠注入法
硬膜外留置カテーテルより0.5~2.0%リドカイン2~10mlを,2時間以上の間隔で間欠的に注入する.
注入後は一定時間の監視と安静時間が必要である.
ブロック後,使用薬液量や濃度,穿刺部位,患者の年齢や全身状態によって薬液注入後の観察項目や安静時問は異なるが,重要なのは呼吸・循環動態の変動に留意することである.上肢・下肢の脱力が十分に回復してから立位や歩行を開始する.くも膜下や硬膜下へ薬剤が流入されると急激な血圧低下や呼吸抑制が生じることがあるため,十分な観察(血圧測定など,必要に応じた処置(輸液,昇圧剤,酸素投与など)が必要である.特に胸椎や頸椎領域で施行する場合は注意を要する.
もちろん,腰椎領域の硬膜外ブロック施行後にも呼吸や循環状態には十分に留意する必要がある。カテーテル留置の際には局麻薬のテスト投与で問題のないことを確認後,必要な量を注入してブロックのレベルチェックも行う.穿刺困難な患者やカテーテル先端を正確な位置に挿入するときなどには,Ⅹ線透視下で行うこともある.
3.合併症1-4)
①急性局麻薬中毒:痙攣などが生じたら,抗てんかん薬の静脈内投与とともに酸素投与を行う.
仙骨硬膜外ブロックの場合には血中濃度が高くなりやすい.
②くも膜下ブロック:腰部や下部胸椎の場合には,呼吸抑制は少なく血圧低下のみのことが多い.
上部胸椎や頸椎では呼吸抑制が起こることがあり,その場合には呼吸管理を行う.
③脊椎麻酔後頭痛:消炎鎮痛薬の投与,安静,輸液の投与,ブラッドパッチなどを行う.
④気脳症:抵抗消失法で空気を使用した場合に生じることがある5).
⑤神経損傷:脊髄損傷,神経根損傷を生じることがある.針を刺入する際に放散痛があった場合はステロイドを局麻薬とともに硬膜外腔に注入する.
⑥硬膜外血腫6):持続する刺入部深部の痛み,感覚鈍麻,筋力低下などがブロック後数時間して現れてきた時には,早急に造影MRIを撮影する.神経症状の程度とMRIの所見から保存的治療,または手術治療のいずれかを選択する.
⑦硬膜外感染7):刺入深部の痛みに伴い発熱が認められたら,ただちに白血球数とCRP値を採血で確かめ,造影MRIも行う.カテーテル留置時にはただちに抜去し,培養に出す.早期に発見すれば,抗生物質の静脈内投与で緩解することが多い.通常表皮ブドウ球菌または黄色ブドウ球菌が起因菌として多いので,まずそれらに効果がある抗生物質を(培養結果が出るまで)投与する.運動神経麻痺が現れたら手術が必要となる.
⑧皮下膿瘍:排膿とともに局所に抗生物質の軟膏を塗布する.同時に経口または静脈内投与も行う.
白血球数とCRP値も調べる.
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※「ペインクリニック治療指針」から抜粋